西洋技術の結集 ―マキシム機関銃―
前回の続きです
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先週末は私用が立て込み、更新が大幅に遅れてしまいました。
申し訳ございません。。。


さて、機関銃を語る上で、まずもって外せない存在が2つありました。
ホチキスと、マキシムです。
特にマキシムは、ベルト給弾方式の自動装填式構造という、現代機関銃の主要素を完成させた点において、
大変な功績を持つ機関銃です。
今回は、そんな「マキシム機関銃」のお話です。


■機関銃の革命児

1885年、一人のアメリカ人銃器設計者が、それまでとは全く新しいタイプの機関銃をイギリスで誕生させます。
それが、マキシム機関銃でした。

マキシム機関銃は、

①コンパクトな本体に単純な構造を備えている点
②外力を必要とせず、全自動で装填・撃発・排莢を行う点
③弾薬帯を使い、半永続的に弾薬を供給する事が出来る点


以上3点の構造的特徴を備えていました。


現代機関銃にとってすれば、常識に過ぎないこれらの特徴は、
どれもマキシム機関銃がその確立に大きく貢献してきました。

さらに、マキシム機関銃は銃器としての構造的進歩よりも、その登場によって、
戦術・戦法そのものを大きく変化させ、戦争の性格を一変させた点が大きな功績だとされています。


第1次世界大戦は、別名「マシンガン・ウォー」と呼ばれていた事は大変有名ですが、
そのマシンガン・ウォーの由来を尋ねると、このマキシム機関銃にたどり着きます。

それまで、白兵戦によって肉薄一斉突撃を繰り返し、勝敗を決していた集団戦は、
兵士何百人分もの働きをこなすマシンガンの登場によって、その性格を一変させます。
戦場では、一人の英雄よりも、一台の機関銃が求められるようになり、
敵兵の殺傷にドラマが生まれる事は無く、無慈悲な機械化・効率化が進んでいきます。


その背景には、確実・正確に弾薬を消化する事の出来る堅牢な構造を備えた、マキシム機関銃の存在がありました。
欧州各国ではマキシム機関銃への厚い信頼が築かれ、特にイギリス、ドイツ、ロシアが
マキシム機関銃をコピー、またはライセンス生産する事に傾注していた事実は、
同銃がいかに優れていたのかを示す、何よりの証拠といえるでしょう。


■日本とマキシム機関銃

日本とマキシム機関銃の関係は意外にも深く、かの名機「零戦」の機首武装である「7.7mm機銃」は
マキシム機関銃を英国で改良した「ヴィッカース機関銃」をコピーした「毘式(びしき)機銃」でした。
ちなみに旧日本軍と、イギリス口径(.303=7.7mm)との深い関係は、ここからきています。


しかし、旧日本軍の歩兵武装の多くは、三八式機関銃や三年式重機のような「ホチキス系列機関銃」や、
九二式、九九式軽機関銃のような「ZB系列機関銃」がそのほとんどを占めています。


実は旧日本軍もマキシム機関銃を輸入し、運用に向けての研究を進めていたのですが、
ある障壁が問題となって、その採用が早い段階で見送られ、ホチキス系列・ZB系列へ目が向けられる事に
なったのです。


その理由は、日本がマキシム機関銃を上手くコピーする事が出来なかった点です。


今でこそ独自の先進技術で世界を席巻している日本ですが、かつては西洋の足元にも及ばぬ
工業力しかなく、他先進国製品のコピーでかろうじて技術吸収をしていた時代がありました。

実は、マキシム機関銃は、その製造に大変高度な技術力が要求される、
当時の最先端テクノロジーを結集させた最新の工業製品だったのです。
その当時の日本は、そうした西洋が生み出した最新の技術概念を理解する力に乏しく、
コピーをする事すら、ままならなかったのです。
具体的には、「マイクロクラスの公差」等々の概念なのですが、これを日本が実用レベルで達成するのは
終戦間際の話となります。

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銃というのは、自動車や飛行機と違って、かつての技術の方が高度で難解な場合が多々あります。
機関銃も同様に、時代を重ねるごとに、簡素な製造過程を経て、単純な構造になっていく事で、
確実かつ堅牢な性能を備えていくのです。

そういった意味では、機関銃という括りだけではなく、工業製品としても革命的な存在、
それが、マキシム機関銃でした。


以上でマキシム機関銃はおしまいです。
次回は、「M2ブローニング」を取り上げたいと思います。
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by clan-aaa | 2009-11-02 14:00 | 「小銃少女」 | Comments(9)
Commented by くろと at 2009-11-02 18:06 x
あ、アルコールなんて入れたら気化して引火して爆発するんじゃ・・・?
引火しなくても気化する圧力でえらいことになりそうですが(^^;


時代とともに製品精度と品質が向上し、軽くて丈夫な素材が使われることでより使いやすくなってきたのも簡略化できた一因ではないでしょうか
それに長年の経験によってどの形態が本質的に優れているかを決定づけることで、余計な部分をそぎ落とし簡素な造りになっていくのだと思います

とはいえ、いまだに試行錯誤は続いているようですが(^^;
Commented by シシジ at 2009-11-02 18:55 x
飲酒射撃w
しかし酒ではなくアルコールだからやばそうですね^^;
マキシム機関銃は見るからに複雑で苦戦したのは想像できます。
次はM2ですか楽しみにしています。
Commented by たかさん at 2009-11-02 19:17 x
ww1の死傷者数は機関銃のせいではね上がったらしいですね。
機関銃の十字砲火はとても恐ろしいものだったと思います。
アルコールですかww・・・もしかしたら、水よりも冷却効率よいかもしれませんねww
Commented by max123 at 2009-11-02 22:54 x
 お返事ありがとうございました。いつも、楽しみにしております。「復水缶」というキーワードをいただき、ぼんやりと聞いていた言葉だったので、調べ直し、勉強になりました。「小さき者へ」は「然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。」というところが好きです。IRAKAさんの前途が暗く、遠いと云う訳ではありません。ので、お気になさらないでくださいね。
 マキシム機関銃がその構造により新しいカテゴリーの元祖になったと言うことですね。拳銃で言ったら、colt M1911みたいな物でしょうか。しかし、拳銃と違ったところは、その運用法において、戦争の性格を変えたという事...。機関銃が、戦術、戦略に、大きな影響を与えた事を今回、再認識いたしました。
 以下、質問です。「マイクロクラスの公差」は、生産においてどこに効いてくるのでしょうか。次弾を装填する機構(ガス圧利用、ショートリコイル)に関わってくるのでしょうか。あと、海軍の方が、生産の精度が高かったのでしょうか。最後に、今回載せて下さったマキシム機関銃の構造図は、どこで閲覧できるでしょうか。
 文末になりましたが、急に寒くなってまいりましたので、ご自愛下さいますよう、お願い申し上げます。
Commented by clan-aaa at 2009-11-03 10:15
>くろとさん

引火もそうですが、、気化したものを吸い込んで意識が吹っ飛んでしまう気がします。。。
彼女達は人間ではない、という事で大目に見てやってください^^
ちなみに何故酔っていない子がいるのかも注視してくださるとありがたいですね。

仰るとおり、構造的進歩よりも、この当時は治金学の発達も関係しています。
特にマキシムは弾薬用ブラスメタルの改良によって、その優秀な性能が
達成出来たように思います。


>シシジさん

お気づきの通り、マキシム機関銃の作動機構は反動利用方式といって、
非常にシビアで複雑な構造になっています。
反動利用方式というと、後にドイツが大成する事になるのですが、
この当時実用レベルで同機構を完成させたマキシムは、それだけでも
大きな意味がある機関銃だと思います。


>たかさん

産業社会が持つ効率主義が戦争に持ち込まれた初めてのケースがWW1でした。
現代戦は機関銃が出る前後で二分出来ると言われますが、
その前後では仰るように死傷者数が桁違いとなっているのも、
やはりマキシム機関銃始め、実用的現代機関銃の存在が
あったと思います。
Commented by clan-aaa at 2009-11-03 10:17
>max123さん

何事にも真摯な姿勢で取り組んでいらっしゃるようで、創作側としては
身が締まる思いです。
簡単ですが質問にお答えいたします。

>マキシム機関銃がその構造により新しいカテゴリーの元祖になった

その認識で問題ないと思います。
細かく言えば、オリジナルのマキシム機関銃は2種類存在し、
本文2枚目の写真がM1884といわれるモデルで、データ採取用の
試作モデルです。すなわちこれが元祖の原型、となった
モデルで、これを元に作られたのがM1885、いわゆる一般的な
マキシム機関銃にあたります。


>「マイクロクラスの公差」は、生産においてどこに効いてくるのか

ご存知かもしれませんが、マキシムは銃身後座開放型反動利用方式と呼ばれる、
当時としては非常にハイレベルな構造的特徴を持っています。

Commented by clan-aaa at 2009-11-03 10:18
そして、マキシムのような自動装填式機関銃は、非常に高サイクルで
部品群が作動・消耗し、戦場においても部品交換が必須になります。
その際、部品同士のクリアランスが低いと、途端に故障します。
これこそ反動利用方式が、それほどシビアな機構である何よりの証拠なのですが、
当時の日本にはその「クリアランス」の概念が根本的に相違していました。

これは、人の手によるすり合わせ、特定の固有部品のみの整合性のみを追及した
旧来的な職人的工業力が、その当時の日本において最高の技術力だと
認識されていたためです。
例えば三八式歩兵銃は、100ヤードで硬貨サイズに収まる驚異的な命中精度ですが、
部品互換性は皆無です。何故なら職人が全て手作業ですり合わせて製造した
結果の「高精度」だったためです。

Commented by clan-aaa at 2009-11-03 10:19
しかし、当時の西洋では、そうした旧来的な高精度の概念ではなく、
「目に見えないレベルでの均一した精度」を、人間ではなく、機械に求めていました。
すなわち、ファクトリー・オートメーションの走りです。
しかし、目に見えないもの―マイクロクラスの公差―を理解するというのは、
大変難しいものです。
そして、マキシムはそうした概念の元作られた始めての工業製品だったという事が
日本にコピーを断念させた最大の理由だったのではないかと思います。


>海軍の方が、生産の精度が高かったのか

これは、陸軍がマキシムを生産する力が無かったというより、
ガス圧利用式のホチキス系列機関銃の方が魅力的に映えた、
と解釈した方がいいかもしれません。

Commented by clan-aaa at 2009-11-03 10:19
先にも述べた反動利用式は大変な高精度が求められましたが、
ガス圧利用方式は当時の日本でも十分製造できるレベルの精度しか
求められない作動方式です。
同機構は、結構無理の利く構造で、ガス流量を意図的に増やして
作動させるような強引な使い方が可能で、環境の変化にも強い特徴があります。
また、満州事変で遭遇した中国軍の「チェコ軽機」の影響を、
当時の陸軍が大変強く受けた結果のようにも思います。


最後になりましたが、以下はマキシム機関銃に関するリンクです。
英字で簡単な説明に過ぎませんが、参考にはなるかと思います。
max123さんも、どうかお体を大事になさって下さい。
長文失礼いたしました。

http://www.allworldwars.com/Handbook%20of%20the%20Maxim%20Automatic%20Machine%20Gun%20Model%201904.html

http://modernfirearms.net/machine/mg56-e.htm
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