前回の続きです
前回は戦前までの日本機関銃史を取り上げました。 その最後にも触れたように、戦後の日本製機関銃の開発は白紙から始まったのですが、 厳密に言えば、62式の開発は戦前から地続きで行われていたものでありました。 というわけで、今回は国産初のGPMG「62式機関銃」の開発背景と、 その性能に迫ります。 ■民間機関銃メーカー 62式機関銃(以下「62式」)を取り上げる前に、まずその製造メーカーである 「日特金属」(現在では住友重機械工業に併合されていますが、ここでは便宜上「日特」で統一します)について 触れねばなりません。 日特金属は、戦前「日本特殊鋼」と呼ばれていた軍需企業で、代表作としてはゼロ戦搭載の 20ミリ機関砲などがある、いわゆる「海軍系」の企業でした。 この「海軍系」というのは、戦前(今も)の軍需企業はそれぞれ陸軍系と海軍系に分かれていた慣習があり、 日特は旧帝国海軍の息がかかった企業だと言われていました。 実はこの日特金属、62式を設計する遥か昔、戦時中に自動小銃や軽機関銃を試作していました。 甲型の開発は後の64式自動小銃へとつながっていく) 「試製自動小銃丙型」と呼ばれたこの自動小銃は、反動・ガス圧併用方式と呼ばれる珍しい機構を搭載した 意欲作でありましたが、残念ながらその作動に難があり、採用には至りませんでした。 なお、このコンペがもっと早く開催され、競合小銃たちが日本製主力自動小銃として採用されていれば、 戦局に大きな影響を与えていたかもしれません。 その後も日特自社開発として試作した「試製超軽機関銃」は、重量わずか5.6キロという当時としては世界的にも 最軽量クラスの軽機関銃でありましたが、作動面の不安と試験中の部品折損により、開発は中止されてしまいました。 しかし、この設計を担当した日特の河村正彌博士は、この時得たノウハウを後の62式の開発へ生かす事を考えると、 この試製機関銃こそが62式の源流といえるでしょう。 ■日特金属と豊和工業 戦後、後の自衛隊となる警察予備隊が設立され、防衛省はソ連の脅威に備えるべく、 国内部隊の武装用小銃の開発を国内メーカーに打診します。 そのメーカーこそ、旧海軍系企業の日特と、旧陸軍系企業の豊和工業(以下豊和)でした。 豊和は自動小銃を、日特は機関銃の開発を開始することになるのですが、この「旧軍系企業」という 悪しき慣習が、両者の小銃開発に大きな影響を与えることになります。 この後、幾度かの試作を経て、1962年にモデル9MB試作機関銃は62式機関銃として自衛隊に制式採用され、 日本初のベルト給弾式GPMGとして産声を上げることになります。 しかしこの62式は、多くの難を抱えた、日本機関銃史上に残る「問題児」でした。 ■細すぎる銃身 62式は、「命中精度の悪さ」「作動性能の欠陥」が大きな問題としてあげられます。 この二つの問題点は、どちらも「銃身が細すぎる」事に起因します。 銃身は、薬莢の圧を受け撃発直後に膨張し、その後即座に緊束するのですが、細い銃身は当然大きく膨張します。 すると薬莢は、膨張時と緊束時の大きなギャップを受けて、薬室に張り付いてしまい、その結果排莢不良を起こします。 これを解決するには、銃身を太くすればよいのですが、62式は何故か銃身外径28ミリという、 機関銃にあるまじき細身の銃身を採用してしまいました。 64式自動小銃の銃身外径が34ミリである事を考えると、いかに細身であるのかがおわかりかと思います。 そのかわりに、62式は大きな質量を持つ揺底の後座エネルギーによって強引に薬莢を引き抜こうとしました。 大きな揺底を動かすために、ガス圧も異様に上げねばなりません。 その結果、揺底の後座時には非常に大きな衝撃が射手を襲い、命中精度はガタ落ちします。 しかしそれでも銃身は細いので、今度は薬莢が「ちぎれ」を起こします。 そこで62式は薬莢を徐々に引き抜く動作(緩徐抽筒といいます)を与えるべく、落ち込み式閉鎖機構でありながら、 遊底の前端を揺動させる「前端揺動式ティルティングボルト閉鎖機構」という、世界でも非常に珍しい 閉鎖機構を搭載しています。 ちなみに私は、砲底面へいたずらにストレスがかかるこの閉鎖機構を、あまり肯定的にとらえていません。 つまる所、ただ銃身肉厚を増やしてやれば解決するのですが、62式はこれを受け入れませんでした。 というのも、62式と同時期に自動小銃を開発していた豊和工業は、この事実に早い段階で気づき、 日特に銃身肉厚を増やすようアドバイスをするのですが、日特はこれをつっぱねたのです。 開発者の意地か、はたまた旧来の軍閥企業の悪習か、真相は定かではありませんが、 時期と志を同じくして切磋琢磨しあうべき企業同士で、このようなやり取りがなければ、 62式、さらには64式自動小銃の評価すらかわっていたのではないかと思わざるをえません。 ■62式機関銃の、これから これら問題点を解決するには、私は以下の提案を考えます。 まず放熱フィンを省略し、ヘビーバレルにする事。 次に揺底を小型化し、それに伴なう後座量減退を解決するべく、逆鈎をもっと前へ移動させる事。 これにより62式が抱える致命的欠陥「自然撃発」(揺底の後退不良による暴発)も解決されるはずです。 これで頬付けが確実になり、反動を逃がしやすくなるはずです。 しかしこうした改良点は当事者が一番理解しているはずなのですが、日本の国防という独特の風土が足枷となって その改良・改善にメスが入らない、すなわちシステムの問題が根本にあるとも思います。 ですので私は、62式は廃止して、海外から優秀なGPMGを輸入すべきだと考えます。 防衛省はどうやらMINIMIを62式の後釜と考えているようですが、MINIMIでは実用上も運用上も GPMGは務まりません。これは次回のMINIMIの回でも触れる予定です。 機関銃は主力小銃と違い、国産にこだわる必要はないと思います。 日本では盲目的に自国小銃を評価する節がありますが、自国民だからこそ その評価はよりシビアであるべきです。 62式は失敗作でした。一丁200万円の価値など今となっては皆無です。 戦争が起きるおそれのない今、ようやく62式とお別れする時期が来ているのではないでしょうか。 大変長い記事になってしまい、申し訳ありません。 次回は、現代によみがえった分隊支援火器「MINIMI」を取り上げる予定です。
by clan-aaa
| 2009-12-06 17:00
| 「小銃少女」
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Comments(10)
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シシジ
at 2009-12-08 11:06
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62式の後継となるとMAGとかですかねぇ?
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tieren
at 2009-12-08 16:58
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なるほど、フルオートの暴走の原因は長いボルトストロークでしたか。
確かに暴走実験を行ったスターリングもラップアラウンド・ボルト(L型ボルト)を採用していない為、長いボルトストロークを持っていました。 他国のGPMGに比べるとどれほど長いのでしょうね? ボルトストロークの様な細かいデータはググっても中々出てこないので困りものです。 チェンバーへのケースの貼り付きの問題ですが、これはある程度の弾数の連続射撃なのでしょうか? まさか、初弾で貼り付くとは思えません。 もしそうならば、用途上あまり肉厚の厚いバレルを備えない狩猟用ライフルは年がら年中クリーニングロッドのお世話にならなければならないと思います。 この辺も他国のGPMGやライフルと比較したい所ですね。(六四式は設計思想上、同クラスのライフルより肉厚に設計されていそうですし) 先述のボルトストロークの件もそうですが、銃身肉厚(直径)もネットではなかなか出てきませんね。 このあたり、細かいスペックまで網羅した資料があればありがたいのですがね。 大抵の書籍でも、こういったスペックは顕著なもので無い限りスルーされてしまうのは悲しいところです。
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くろと
at 2009-12-08 18:40
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平桜松
at 2009-12-09 01:04
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clan-aaa at 2009-12-09 02:42
>シシジさん
MAGくらいしか選択肢がないというのも世界的に30口径汎用機銃の重要性が 薄れてきた証拠なのかもしれません。 M2ブローニングとMINIMIをライセンス生産してますし、 もう全部FNにすればまとめ買い割引とかないのかなとか思っちゃったりします^^ >tierenさん ストロークの長さの元凶ですが、なんでこんな後ろに握把をもってきたのかが ちょっと不可解なんです。おそらく車載を念頭に置いた設計だと思いますが。 薬莢の張り付きですが、これはご指摘の通り連続射撃時に起こりうる問題です。 銃身外径に関してですが、これは私も多くの客観的データに触れたことがないので 断言出来ませんが、一概に太さで比例的に性能が決まるわけでもなさそうです。 例えばブローニングM1919機関銃は62式と銃身外径が同じ28ミリですが、 こちらは名機関銃として誉れ高いのは御存知の通りです。 もちろん作動機構等の差異はありますが、全体的設計の完成度を決める上で 銃身外径が重要な一要因である事は間違いないようです。
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clan-aaa at 2009-12-09 02:43
>くろとさん
値段の高さは国産小銃ならではの弊害ですね。 サムホールストック仕様の89式スポーターなんて外国で絶対ヒットしますし 単価も下がると思うんですけどね^^ NATO弾仕様のPKMで作戦行動をとる自衛隊っていうのは 確かにちょっと見てみたいです。。。 んでまた国産にしちゃって単価が上がり、世界一高価なPKMなんてどうでしょう^^ >平桜松さん はじめまして。 いわゆるダサかっこいい国産銃器の魅力は私も同感です^^ 願わくば62式の後継も国産でお願いしたいというのが本音ですが、 それを受け入れるような時代では無くなってしまったように思います。 もちろんの事ながら、自衛隊の「もしも」の時を考えての 62式廃止論という事で、ご理解頂けると助かります。。。 コメントありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
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翔
at 2009-12-10 22:52
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clan-aaa at 2009-12-11 01:33
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鉄腕カブト
at 2010-10-14 19:48
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橘花
at 2010-11-03 14:04
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悔しいですね~・・・・
けど、当時の日本としてはこれしかなかったのでしょう。 しかし、価格どうにかならないもんですかね~何であんなに高いんでしょう?89式や64式も優秀だと思いますが軍用銃としてはちょっと高いような気がします・・・豊和工業ェ・・・ 因みに自分は62式大好きです。何だか自分の好きな銃は「クソ銃」と叩かれてるものばかりな気がします・・・64式にしても62式にしても・・・・でもL85はそんなに好きじゃないです
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