ヘッド・スペース
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突然話は変わりますが、トリジコンの聖書刻印問題がかなり深刻化しているようです。
先日英国で採用されたL129マークスマンライフルにも×6のACOGが搭載されていましたが、
同社全てのモデルに打刻されているのであれば、米軍だけでなく多くの国々で
回収・改善が要求されるだろうと思います。


さて、話戻って今回は「ヘッドスペース」のお話です。

■ヘッド・スペースとは

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ヘッドスペース(頭部間隙、HSとも)とは、薬室内部で弾薬がこれ以上進まない点から
ボルト前面までの距離
を指す専門用語です。


意外に思われるかもしれませんが、薬室が閉鎖状態にあるからといって、
弾薬は完全に身動きが取れないわけではありません。
閉鎖状態の薬室と弾薬の間には、ほんの少し、コンマ数ミリの「あそび=公差」が設けられています。

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もし弾薬と薬室の間にあそびがなければ、一体どうなるでしょう。
砂などの異物が少しでも混入しただけで、閉鎖不良を起こしてしまいます。
また無理に閉鎖した結果、開鎖がままならず、異常腔圧を起こし、
ロッキングラグを吹き飛ばしてしまう恐れもあります。


逆にあそびが大きすぎると、これもまた問題を起こしてしまいます。
具体的には命中精度の著しい低下、薬莢の張り付き、ちぎれを起こし、
さらにひどいと「脱管」といって、燃焼ガスの圧力によるプライマーの吹き飛ばしによって
射手へ高温高圧の燃焼ガスが吹き付け、最悪の場合閉鎖機構を吹き飛ばして大怪我をする恐れもあります。
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(↑「G3用ヘッドスペース・ゲージ」
ボルトヘッドとロッキングピースの間に差し込んでヘッドスペースを検査するためのゲージ)


この為、ある一定の限度内であそびを含めた薬室内部の距離を、
適正な「ヘッドスペース」として設定する事が銃の性能を大きく左右します。
そして、定期的にヘッドスペースを検査・調整してやらないと、上に挙げたような問題が発生してしまうのです。


■M2ブローニングとヘッドスペース


これは、ヘッドスペースをわざと不適切な状態にして撃つと、どうなってしまうのかを実験したものです。
射手がいれば死んでいたかもしれません。
これほどまでに、ヘッドスペースの調整は重要なのです。


銃によっては、定期的どころか、事あるごとにヘッドスペースを調整してやらないといけないものもあります。
それが、上の動画でも使用されていたM2ブローニングです。
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(↑「M2ブローニング バレルグループ」 ボルトはバレルエクステンション(右下)と閉鎖結合する)


M2の閉鎖は、ボルトとバレルエクステンションの間で完了します。
しかしヘッドスペースはボルトと、バレルとの関係で決定される距離です。
バレルはバレルエクステンションにねじ込まれた関係にあるため、M2は銃身交換の度に
ボルトとバレルの関係が不安定となります。

よってM2は銃身交換の度にヘッドスペースが適正であるかどうかを確かめなければならないのです。
マシンガンの歴史的傑作とうたわれるM2最大の弱点はここにあります。


ただ、現在既存のM2と更新が進められているM2A1マシンガンは、ヘッドスペースの調整が簡素化された
QCB(クイック・チェンジ・バレル)モデルとなっているのですが、これはまたの機会に触れたいと思います。



というわけで、次回はヘッドスペースの調整方法を含めた
M2ブローニングの銃身交換方法について取り上げたいと思います。

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by clan-aaa | 2010-01-23 07:00 | 「小銃少女」 | Comments(14)
Commented by Hior at 2010-01-23 19:28 x
はじめまして^^)ノ

え、えげつないですね・・・火薬の爆発力は。
安全に拘束されて仕事してたんですね。

そう言えば銃も金属疲労とか起こすんでしょうか・・・
Commented by らば at 2010-01-23 21:41 x
恐ぇぇ。ブルバップ式の小銃でこれが起きると顔面近くで爆発が起きることになりますね。
自分の銃に殺されたくないです。

M2は銃身交換の度にボルトとバレルの関係が不安定になる、とのことですが、他の機関銃は銃身交換してもM2ほどの歪みは出ないのでしょうか?
Commented by tieren at 2010-01-24 08:17 x
いきなり前の記事の話で申し訳ありませんが、CALの件はやはりガスの逆流絡みですか。
ボルトアクションはその辺りの対策は万全ですが、逆に自動式ではタボール以外では殆ど聞きませんね。

さて、こちらの記事の話へ。
ヘッドスペースと言えば、プライベートライアンでの日本語訳の話が有名ですね。
元のモデルである1919の調整をyoutubeでいくつか見ることが出来ますが、どれもとてもじゃありませんが高ストレス下の戦場で出来るようには見えませんでした。
いくら信頼性が高く、運用で対処すると言えども、良くぞこんなのを使い続けていたなと思います。

既に他の方が挙げられていますが、クイックチェンジ式の機関銃の機関銃はどのように対処しているのか気になりますね。
オープンボルト撃発の場合その辺り若干ルーズなのでしょうか?
Commented by デュオ at 2010-01-24 12:25 x
そういえば小説「魔弾」でヘッドスペースか薬室に火薬の残りカスが溜まって弾がぶれるという描写がありましたが本当でしょうか?(使用銃はヴァムピール付きのMP44)
Commented by ロンリー at 2010-01-24 15:02 x
 自動拳銃で、この様な爆発が起こると、弾倉の弾薬に引火して、射手の手を傷つけそうです。リボルバーなら安全でしょうか?
Commented by clan-aaa at 2010-01-25 22:33
>Hiorさん

はじめまして。コメントありがとうございます。
お察しの通り強い衝撃が断続的に掛かる銃にとって金属疲労は長年の課題でありました。
現在は生鉄の加工方法や熱処理によって銃の寿命が格段に伸び、
一人の兵士の生存年数(兵役年数)を大幅に上回るようになったためにそれほど問題視されなくなっています。


>らばさん

ご存知かと思いますが、通常のライフル弾を使用する機関銃は
リリースレバーによるワンタッチクリック固定が一般的ですが、
これはねじ込み式のM2と比べると精度の点で不利だと言えます。
しかしながらリリースレバー方式の場合、銃身を固定する作動機構を
用いている場合が多く、M2のようにバレルが激しく前後動されることがないので
問題となるような歪み、緩みは通常発生しないといわれています。
Commented by clan-aaa at 2010-01-25 22:33
>tierenさん

ご指摘の通りM1919はM2と同様に煩雑なヘッドスペーシングを強いられますね。
M2とその他機関銃とで一番大きな違いとなるのが作動方式ですが、
やはり銃身が大きく前後動する、この点が銃身の固定如何を決定づけると思います。
その点同じ反動利用方式でもMG3等は閉鎖機構をうまくまとめ上げることで
この問題を解決しているように思います。


>デュオさん

ヴァンピールが登場するような小説があるのですか。驚いてしまいました。。。
ご指摘の件ですが、火薬が燃焼しきれずに銃内部に残ってしまうというのは本当です。
銃身の短いライフル・SMG全般でよく見られると聞きますが、その残った火薬が
命中精度に悪影響を及ぼす、というのは眉唾ですね。。。私の勉強不足かもしれません。
聞いた限りでは無視出来る範囲のように思います。
Commented by clan-aaa at 2010-01-25 22:33
>ロンリーさん

鋭いご指摘だと思います。
説明不足で申し訳ないのですが、実はリボルバーだけはヘッドスペースがありません。
ない、というよりも、リボルバーにとってHSは無視出来るものだからです。
リボルバーは通常リムドケースを使用します。となるとHSはリムの厚さとイコールになります。
そのためHSをあえて設定する必要がないのです。
ですがこれは拳銃弾に限った話で、例えば同じリムドケースでもPKMやドラグノフに使用される
7.62x54Rの場合は、リム厚=HSであることは同じですが、それとは別に薬室内の
あそびを設けてあげる必要があります。
Commented by らば at 2010-01-26 00:41 x
詳しいご説明ありがとうございます。
ねじ込み式とリリースレバー方式、それぞれ一長一短があるようですね。
M2の場合前者を採用した結果、高い命中精度という利点とと煩雑な銃身交換という欠点を持ったわけか。
次回の解説、楽しみにしています。

あと、リボルバーの話ですが、
リボルバーの場合は自動拳銃と違って、撃発後動作する部分が存在しないのでカートリッジのリムのみで閉鎖は完了する、と考えていいのでしょうか? 質問ばかりですいません。
Commented by tieren at 2010-01-26 12:28 x
なるほど、ショートリコイル作動との結びつけは思いつきませんでした。
確かに、ロッキングがボルト側にあるブローニング系に対し、MG系はロテイティングボルトやローラーロッキングと同じショートリコイル作動でもしっかりとバレルと噛み合う方式ですね。

こうして考えると、ここでもガス圧作動式の柔軟性が見えてきますね。
今回も発見の多い記事でした、毎回毎回本当にありがたいです。

そういえばQCBモデルの銃身交換動画を見ました。
詳細は分かりませんが、アレだけあっさり交換していると、バレルのロック機構の強度が気になりますね。
Commented by えたのーる at 2010-01-26 19:14 x
はじめまして。
「小銃少女」毎週楽しみにしております。
50口径ってそんなに恐ろしい事故が起きるものなんですねw
陸自の基地祭で展示された74式戦車車載のM2が針金でぐるぐる巻きにされていた本当の理由を垣間見た気がしますwww一般人が何をするか分かったものじゃないですから。

スティーブン・ハンター著「魔弾」についてですが、劇中では火薬の燃えカスではなく「STG44改造銃でジャケットなしの純粋な鉛弾を撃った結果、弾の鉛がライフリングを埋めてしまった。」というようなことが書いてあったとおもいます。
Commented by clan-aaa at 2010-01-28 21:20
>らばさん

いえいえ。質問して頂けるとむしろこちらが助かります。。。
リボルバーの場合、ボルトというものが存在しない、というのが
HSを無視出来る一番の理由だと思います。
撃発後動作しない点ではボルトアクションライフルも同様ですが、
こちらはきちんとしたHSの設定が不可欠となるのも、ボルトが存在する為です。


>tierenさん

おそらくですが、QCBモデルの登場はHSの簡素化はもちろんの事、
治金学と機械加工技術の発達も大いに貢献したのだろうと思います。
80年前には出来なかったような事も、今の技術でリファインすれば
こうなるんだよ、という良い見本ではないだろうかとも思います。
仰る通りあまりにもあっさりすぎて心配になる部分はありますが。。。
Commented by clan-aaa at 2010-01-28 21:21
>えたのーるさん

はじめまして。コメントありがとうございます。
いつも応援して頂きありがとうございます。

お察しの通り、その針金の理由はこういった事態を避けるためであろうと思います。

http://www.youtube.com/watch?v=_Px0wErIeJI&feature=related

ですが針金でぐるぐる巻き、というの何だか野暮な感じです。
盗難防止も兼ねているのかもしれませんね。


魔弾の件納得出来ました。
おそらく、フルオートによる銃身侵食、いわゆるエロージョンで発生した
裂傷に、ボール弾による鉛が食い込み、レッディングを起こしたため
命中精度が落ちた、というような描写なのだろうと思います。
改造銃というのもその辺りの論拠を強化する目的があったんじゃないかと。
中々興味深い小説ですね。
Commented at 2011-04-06 20:08 x
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